俄歩
「山に登ること」 は、与えられた条件の中で新しい経験を積むことに 他ならない。 だから、  自然と向き合える体力  自然を味わえる感性  自然に応えられる知力 を大切にしたい。
プロフィール

俄歩人 (がふと)

Author:俄歩人 (がふと)
 学生時代に歩いた山、
歩きそびれた山々、
かって妻と歩いた山をひとり
静かにたのしんでいます。
年に一度、写真集「岳と花」を
記載。
(さいたま市 浦和 在住)



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雪の峠越え
P1020068.jpg P1020093.jpg P1020110.jpg (写真はクリックして拡大して下さい)

 この季節、「真っ白な森の中の道を歩いて峠を越えたい さらに蒼穹が拡がれば言うことなし」
そんな想いに背を押され、アイゼン・ピッケルを持ち、北八ヶ岳の山小屋を訪れた。
西麓、奥蓼科温泉郷・渋の湯から 東麓・稲子湯までの雪中彷徨、
気象に恵まれれば天狗岳山頂から北や南八つの雪峰も眺めてみたい と考えていた。

 西麓から東麓へ横断となると車の回収が難しいので、谷川岳・白毛門以来の二年ぶりの
JR利用となった。

「山行クロニクル No.64」 北八ヶ岳・中山峠越え     単独
’11.1.19(水)浦和=中央本線・茅野駅=奥蓼科温泉郷・渋の湯(泊)
    1.20(木)渋の湯~黒百合平・黒百合ヒュッテ(泊)
    1.21(金)黒百合平~中山峠~みどり池~こまどり沢~稲子湯(泊)
    1.22(土)稲子湯=小海線・松原湖=小淵沢=甲府=浦和

    IMG.jpg ルート図

1.19(水)
 新宿から中央本線スーパー特急「あずさ」に揺られ、長野県茅野駅へ。
大正・昭和初期の登山家 小暮理太郎氏の「東京から見える山」を思い浮かべながら
車窓からの峰々を楽しむ。

 丹沢山塊の上に白銀の富士、先月登り損ねた滝子山。
笹子トンネルを抜け大和甲斐から甲府盆地へ入る頃になると白峰三山が美しい。
そして鳳凰三山、地蔵岳のオベリスクのみ雪が付かず黒い突起が目立つ。
茅野駅手前の日野春では 摩利支天を抱えた甲斐駒ケ岳が立派。
また 南八つの編笠山・権現岳・主峰赤岳が山頂にガスを曳いて白く光っている。
それぞれの峰の思い出をたどりながら車窓を楽しむ。

 茅野駅から冬季平日は二本しかない奥蓼科温泉郷行きのバスの乗客はわずか三人。
終点渋の湯へ向かう登山者は私ひとり。
この夜は渋御殿湯に宿をとり、明日からの雪中行に備える。
宿泊客は私ともう一組のみ。

P1020054.jpg P1020061.jpg
御殿湯の湯        登山口

 八ヶ岳は東京から近いこともあって何度も歩いた峰々である。
若い頃、妻を伴い縦走したこともある。
最近では4年前、ツクモグサを尋ねて南八つの硫黄岳・横岳・赤岳へ、またその一年後には
梅雨に煙る苔と池を眺めに北横岳・蓼科山・双子山など北八つを彷徨したものだった。


1.20(木)
 朝9時、風が舞い上空は黒灰色の雪雲に覆われている 氷点下11度。
重たげな雪を被ったミネカエデやツガ、トウヒの森に分け入る。

P1020062.jpg 黒百合平への道

 久し振りに圧雪された登山道を踏みしめ、雪山だという気持ちが高ぶってくる。
道を外すと途端に膝上まで潜る。

P1020063.jpg P1020065.jpg P1020066.jpg 登山道 点描

 真冬の北海道・美瑛の森でみたオオシラビソの凍裂のすさまじさが蘇ってくる。
唐沢鉱泉分岐を過ぎるとトウヒ(エゾマツの変種)の森となる。
時折の突風に樹上からの雪の塊りを浴びる。灰色の空は風が唸っている。

P1020068_20110123160946.jpg 唐沢鉱泉分岐

P1020070.jpg P1020073.jpg P1020074.jpg 雪の森

 黒百合平近くで下山する登山者と往き交う。
最初は中年ご夫妻 次いで私と同年輩の単独男性、いずれも天狗岳へアタックしたが、
猛烈な雪交じりの風とガスで断念したとのこと。
樹相が変わりオオシラビソの森が美しい圧雪された白い道を登り続ける。

 12時 黒百合平着。
風は少し収まってきたが相変わらず灰色雲が拡がっている、気温 氷点下10度。

P1020077.jpg 黒百合平

P1020082.jpg P1020076.jpg P1020089.jpg 黒百合ヒュッテ

 懐かしい黒百合ヒュッテに挨拶。既に先代は年に一、二度しか登ってくることは無く
今は息子さんが管理しているとのこと。
昨夜泊った中年ご夫妻のことが心配で尋ねられたので、先ほど登頂を諦め無事下山途中で
すれ違ったことを報告する。

 東天狗岳に登るかどうか思案するも この気象条件では眺望も得られないだろうと
あっさり断念。
黒百合平を散策し、天狗岩の奥に広がる緑豊かな奥庭を妻と降りてきたことなどを
振り返った。

P1020078.jpg P1020079.jpg P1020084.jpg P1020086.jpg

 結局 午後は黒百合ヒュッテに沈澱、森は静かで小鳥の声も聞こえない。
何をするでもなくポツネンとストーブにあたっていると 山の時は静かに過ぎていく。
この夜の宿泊者は私ひとり。

1.21(金)
 早朝6時、氷点下18度。寒いというより痛い。
北西からの雪雲に覆われているが 昨日よりは期待が膨らむ。
食後、雲のあわただしい擾乱がはじまり、時折、鋭い白冷の光が射し始める。

P1020090.jpg 陽が射し始めた奥庭方面

 今日はこのまま中山峠を越え、みどり池から稲子湯へ降りますと小屋番氏に挨拶し
黒百合ヒュッテを後にする。
中山峠(2410m) 9時。
インディゴ・ブルーの空が拡がり始めた東天狗岳を仰ぎ、別れを告げる。
残念ながら 峠からでは眩しいというほどの白さにはいまひとつであった。

P1020091.jpg P1020093_20110123170353.jpg P1020094.jpg P1020097.jpg
中山峠                           東天狗岳

 夏のことではあったが妻とこの東天狗岳を越え中山峠からニュウへ向かい、
シャクナゲ尾根を稲子湯に降りたことを再び想い出す。
八ヶ岳は何処を歩いても想い出がついてまわる。
今日は直接みどり池への急下降の道を辿る。

 峠直下の急崖をアイゼンを効かせながら降りると、突然、まだ新しい踏み跡が
稲子岳の方へ続いていた。
登山道ではなく30cm以上ものツボ足でトラバースしている。
時間的に余裕があったので興味を持って踏み跡を辿ってみるが 太ももまで潜る。

 オオシラビソやツガの木に掴りながら樹間の斜面を踏みぬいたり、滑ったり
呼気荒くせき込むほどで 手足の力がないとどうにもならない。
コンパスで方向を確かめると どうやら稲子岳の南稜に取り付くつもりらしい。
30分後、これは私にはとても無理と判断、再び同じ踏み跡を登山道まで戻った。


 苦闘1時間、赤テープのさがる道に戻り、大休止。
そこへ中年ご夫妻が登ってきた。
奥さんはふうふう言って「待ってよう~」と声をあげる。
ご主人が「前爪を使え」と指示するが、この急登は堪えているようだ。一緒に休憩。
稲子湯まで車で来て昨夜はしらびそ小屋泊りとのこと。
今日は東天狗に登り置いてきた車ゆえにピストンの予定とか。
雪山では動くものとの出遭い、鳥や獣、とりわけ人との出遭いは やはり風景に奥行きが
生まれると想う。

P1020101.jpg P1020102.jpg 東麓 みどり池への道

P1020103.jpg 稲子岳 南稜を仰ぐ

 稲子岳の岩稜を眺めながら坦々と白い道を降る。
この南壁を眺めていると
「岩尾根を渡り歩めば昼を近み、日向の岩はあたたまりいる」という
若くして南方戦線に散った芸術家であり登山家でもあった 加藤泰三の詩が思い浮かぶ。
本沢温泉への道を分け みどり池へ。
しらびそ小屋の雪に埋まったみどり池と東天狗岳を見上げるベンチで大休止、一服。

P1020106.jpg 東天狗とその稜線

 蒼穹の拡がる東天狗が美しい。
傍らに柴犬(?)が繋がれていて、このベンチで休むなら何か寄こせというように
低い声で吠える。
すぐ取り出せるのは黒糖飴しかなかったので それをあげるとまたたく間にたいらげたが、
あまりに甘かったのか すぐ足元の氷をさかんに舐めていた。
私の咳を聞きつけ小屋の女将さんがでてきて 犬が変な咳をしていると様子を
見に来たという。「いまダイエット中なのでお菓子をあげないでくださいね」と
言われてしまった。
 昨夜 この小屋に泊ったご夫妻と遭ったか尋ねられ、中山峠直下で元気にすれ違いましたよ
と報告する。
何処の小屋でも係わりのあった登山者の動向を気遣う心根が嬉しい。

P1020110_20110123175701.jpg P1020113.jpg P1020112.jpg 
みどり池と東天狗                     柴犬(?)

 犬にさよならを言い こまどり沢沿いを降る。
奇妙な倒木に話しかけたり沢に雪を蹴込んだり、動物の足跡を探したり・・・と
宿が近くなると子供のような心に帰る。
しばらく降ると樹相がカラマツ林に変わる。

P1020114.jpg P1020115.jpg P1020119.jpg P1020120.jpg
稲子湯への道       おろちのような倒木    カラマツの林    こまどり沢

 稲子湯 2時着。
さっそく懐かしい鉄分の多い褐色の弱炭酸泉を楽しむ。
20年もの昔、テキパキと宿を取り仕切っていた女将さんはもう歳ながら健在で
何かと世話を焼いてくれた。
今夜も私ひとりの宿、酒を飲みながらこの山行を振り返り時を過ごした。

P1020121.jpg P1020129.jpg P1020128.jpg P1020131.jpg
                                                稲子湯の湯


1.22(土)
 翌朝、宿のご主人に小海線・松原湖駅まで車で送ってもらう。
途中の松原湖、昔と異なりいまは天然のスケートリンクは無く、土曜日とて凍った湖上の
わかさぎ釣りで賑わっていた。
無人の松原湖駅から小渕沢へ 海ノ口・信濃川上・野辺山・清里など、学生時代乗り降りした
駅が懐かしい。
野辺山高原の車窓から南八つの雪峰が大きく迫ってくる。
甲府から特急「かいじ」に乗り継ぎ帰宅の途に就いた。

P1020138.jpg 中央本線 日野春から甲斐駒ケ岳を望む

 天狗岳には登れなかったものの、西麓から東麓まで雪の峠越えを楽しんだ北八つ彷徨。
モンスターのような樹々の間の白い道を歩き、想い出を辿りながら
峠を越えたいという衝動を満足させることができた山行だった。
                          (写真はクリックして拡大してください)










































水仙
 旧臘 28(金)、花摘み(といっても山言葉のオハナツミではありません)が
したい という孫娘Meiを連れて、冬の透明な陽射し溢れる千葉・房総半島の
「スイセンの谷」を訪れた。

P1020046.jpg          (写真はクリックして拡大して下さい)

 日本水仙というと私は真冬の寒風の中、日本海の荒波に洗われる福井・越前海岸の
風情が好きである。
凍てついた烈風と波浪を受けて すっきりとした立ち姿をみせる
まさにナルシストそのもの。

 近場の暖かい房総半島にも幾つかのスイセンの郷がある。
ここでは日溜まりゆえ 凛々しさはあまり感じられないが、
緑の絨毯に金平糖をバラまいたように 小さな谷を埋め尽くして咲き乱れていた。

P1020032.jpg P1020036.jpg

 ワァーと歓声をあげ、妻の携帯電話で写真を撮りまくり、
仕事中のママやパパに送っているMei。
私達夫婦の子育ては男の子ばかり二人であったので、童女の反応は
いつも新鮮に感じる日々である。

P1020042.jpg

P1020035.jpg photo by Mei