俄歩
「山に登ること」 は、与えられた条件の中で新しい経験を積むことに 他ならない。 だから、  自然と向き合える体力  自然を味わえる感性  自然に応えられる知力 を大切にしたい。
プロフィール

俄歩人 (がふと)

Author:俄歩人 (がふと)
 学生時代に歩いた山、
歩きそびれた山々、
かって妻と歩いた山をひとり
静かにたのしんでいます。
年に一度、写真集「岳と花」を
記載。
(さいたま市 浦和 在住)



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涸沢の紅葉 と 初雪の穂高岳
20071209223524.jpg (画像はクリックして拡大してください)

 この写真は初冬の北アルプス・・・
千歳から中部セントレアへ向かう途中、機内から撮影したものを北海道
の友人が送ってくれた。
見慣れた角度ではなく、あまりにも高高度なので一瞬アレッと思ったが
画面中央に槍ヶ岳と槍沢、左へ大喰岳、中岳、南岳を経て北穂高岳。
右奥には鷲羽岳、黒部五郎岳、左奥には笠ヶ岳が、手前は右から常念岳
~蝶ヶ岳への稜線が写っている。懐かしい山々である。
 この写真に触発され、まだ「俄歩」に記載していない昨年歩いた山稜
のクロニクルを補筆して転載しました。

20071209224858.jpg   20071209225003.jpg   20071209225106.jpg
槍・穂高の稜線        紅葉と穂高           朝の涸沢小屋

「山行クロニクルNo.4] 穂高岳  
’06年10月11日(水)~10月16日(月)5泊6日  単独
10.11(水)浦和~中央道松本IC~坂巻温泉(泊)
   12(木)温泉~上高地~横尾~涸沢小屋(泊)
   13(金)涸沢~ザイテングラート~白出のコル~奥穂高岳~穂高岳山荘(泊)
   14(土)山荘~涸沢岳~ザイテングラート~涸沢小屋(泊)
   15(日)涸沢~横尾~上高地~坂巻温泉(泊)
   16(月)温泉~浦和

 涸沢カールの紅葉のピークに合わせて、岩峰 穂高の稜線を歩こうと計画、
混雑する7(土)~9(月)の三連休を避け山小屋の予約を取った。
この三連休、急速に発達した低気圧による荒天で、初雪と強風のため、
北アルプス白馬岳周辺で5人、私が向かおうとする穂高岳では、前穂高
で1人、奥穂高で1人が遭難死した。

家内や息子達夫婦も皆「行くのをヤメテ」の大合唱。簡易アイゼンか
ら雪山用の12本爪に替えるなど十分装備を点検したし、荒れた場合の
心の準備もしたから と説得に努めた。
「どうしてこんな時に一人で登るの?」、「何故~」と言われても・・
山に登ろうとする者にとっては「どうやって登るか」そのことは結構
考えるが、「何故登るか」ということはその時はあまり考慮しないものだ。
登る時になって何故と考えるのはあまり現実的ではなく、むしろ日常的
なテーマとして胸の内に納めているものだろう。
山小屋情報では稜線の積雪20cm程度だが、かなり凍ったところが多い
のでアイゼンは必携とのこと。天候の長期予報はまずまず。

10.11(水) 第一日目
 上高地、槍や穂高へ行くときはいつも定宿としている坂巻温泉まで
車を走らせ、入山中この温泉宿に車をデポする。
上高地の入り口、釜トンネル付近では安房峠よりに中の湯、信州側にこ
の坂巻の湯があり登山基地として利用しやすい。坂巻の湯は硫黄やナト
リウムを含んだ炭酸水素塩泉で源泉は80度近い高温のため 館内の
暖房もすべてこの湯でまかなっている。源泉掛け流し。非常に身体が
温まる湯で古くは「子宝の湯」としてご婦人に喜ばれたと言う。
 
DSCF1406.jpg 坂巻温泉

10.12(木) 第二日目
 シャトルバスで上高地に入る、8時ちょっと前。晴天。
バスターミナルや河童橋周辺もまだ紅葉には早く、平日の早朝とて観光客も少ない。
梓川の左岸に沿って明神岳や前穂高岳を横目に見ながら明神~徳沢~横尾
まで約3時間。
20071209234911.jpg 梓川から明神岳・前穂高岳

横尾山荘で昼食、横尾大橋手前の広場は涸沢~穂高へ向かう組、槍沢~
槍ヶ岳へ向かう組 さらには双方から降りてきた登山者で賑わっている。
重たそうな一眼レフを胸にぶら下げた中年男性に 涸沢の紅葉はどうですか
と尋ねると 今がピークです 満足する写真が撮れましたという返事。
12時、梓川に架かる横尾のつり橋を渡り横尾谷に分け入る。本谷橋までは
針葉樹と笹ヤブの坦々とした道。色づいた木々を貼り付けた屏風岩の
巨大な岩壁を左に眺めながら本谷橋へ。ここまで1時間。

2006_101606奥穂高・涸沢岳0088 屏風岩

橋を渡ると急登、しばらく汗をかくとガレ場に出て遠くに涸沢を望むようになるが
これからが結構時間をとられる。さらに1時間半、真っ赤なナナカマドや黄色の
衣を纏ったダケカンバの間を抜け、涸沢ヒュッテと涸沢小屋が見える石畳に出る。
涸沢 池ノ平だ、ここまで休憩を含めて上高地から7時間。

赤、青、黄、緑のカラフルなテント場の中を涸沢小屋(2300m)までの登りを励む。
 見事! 素晴らしい! 手近の真っ赤なナナカマド越しに涸沢カールの白い
雪渓、その上に空を囲むように左から前穂北尾根、前穂高岳から吊尾根を経て
奥穂高岳、真ん中の鞍部 白出のコルから右に涸沢岳そして北穂高岳 と
峨々たる岩峰群が我が身を見下ろしている。皆、僅かに白い雪を頂いている。
 小屋のテラスに腰を下ろし時計を見る、4時少し前。
誰しもが口を揃えて讃える涸沢の紅葉、それが今目の前に展開している。吹き渡る
風は冷たいが生ビール片手に飽かず眺めた。
2006_101606奥穂高・涸沢岳0026 2006_101606奥穂高・涸沢岳0025 2006_101606奥穂高・涸沢岳0019 2006_101606奥穂高・涸沢岳0082
北穂             前穂と奥穂 吊尾根    カールの雪渓       テント場

  3日前の三連休は一畳に2人の混みようだったそうだが、今日はゆとりがあり一畳分を一人
で確保。明日の登頂を楽しみに星空を眺め、就寝。

10.13(金) 第三日目
 晴天。常念山脈から昇った朝陽でモルゲンロートに輝く奥穂高岳や涸沢岳に向かって
7時30分、小屋を後にする。涸沢岳から伸びた小さな痩せた枝尾根 ザイテングラート
への取り付きまで、カールの岩場と雪渓を登る。
2006_101606奥穂高・涸沢岳0023 2006_101606奥穂高・涸沢岳0030
モルゲンロートに輝く穂高     ザイテングラート

 ザイテングラートの岩場は薄い雪と氷に覆われかなりの神経を使う。往く手は真っ青な
空のもと穂高の峰峯と稜線が美しく、振り返るとカールの雪渓と紅葉の対照が鮮やか。
急峻なアップダウンにかかりアイゼンを着ける。
小屋から白出のコル 穂高岳山荘まで標高差700mの急登を3時間かかってこなし、
山荘の雪のテラスで昼食、休憩。

高年齢の単独行故、遭難事故があったばかりの小屋の気遣いを素直に受け、12時過ぎ
宿泊手続きを済ませザックを預けて空身で奥穂へのクサリと梯子の懸崖に挑む。
雪と氷の岩稜をアイゼンを効かせて約1時間、奥穂高岳(3190m)頂上。
 吊尾根の先には前穂の突起、西穂方面は僅かに雪を被ったジャンダルムの威容、
さらに北へ向かって涸沢岳から北穂、大キレットの落ち込みを越えて槍ヶ岳への稜線、
いずれも筆舌なり難い美しさと威圧感をもって迫ってくる。
2006_101606奥穂高・涸沢岳0041 2006_101606奥穂高・涸沢岳0037
ジャンダルム        涸沢岳~北穂高岳

青空の下微風の中、4~5人がやっと立てる程度の頂上の祠の傍らに腰を下ろし、西の
笠ヶ岳、東の常念岳、北方、槍ヶ岳の奥には鷲羽岳や水晶(黒)岳さらに つるぎ岳と
後立山連峰の白い嶺々を眺め、煙草をゆっくり楽しみながら、穂高を繰り返し訪れる岳人
の心情を理解する。
 この次、ここに腰を据えるのは夏か、残雪の頃だろうか・・・。前穂高への吊尾根、西穂高
への峻険な稜線を目で辿りながら、ブリザードと陽光の違い、たった5,6日の違いで 
彼岸へ逝ってしまった山人達のことを想う。
2時間後、山荘に戻り談話室で酒を飲みながら落日を待つ。
2006_101606奥穂高・涸沢岳0036 2006_101606奥穂高・涸沢岳0053 2006_101606奥穂高・涸沢岳0049  
奥穂頂上から見た笠ヶ岳   山荘談話室      遠く加賀の白山に沈む夕陽

10.14(土) 第四日目
2006_101606奥穂高・涸沢岳0057 2006_101606奥穂高・涸沢岳0056
常念山脈に昇る朝陽    山荘の朝

 雲は多いが今日も晴れそうだ。テラスで朝陽を浴び、食後 涸沢岳(3,110m)を登る。
頂上からは涸沢槍への切れ込みの先に北穂高岳のドームと南峰が大きく立ちはだかり
難所の大キレットから南岳を越えて槍ヶ岳への稜線が おいでおいでをしている。
東側、眼下の涸沢カールに紅葉が錦を広げている。

2006_101606奥穂高・涸沢岳0060 2006_101606奥穂高・涸沢岳0072 2006_101606奥穂高・涸沢岳0076
涸沢岳頂上        北穂高岳~槍ヶ岳稜線        カールの紅葉

 満喫して2時間後 再びザイテングラートを降る。土曜日とて登ってくる人の多いこと。
その都度、前穂の急峻な北尾根七峰を眺めて待機。カール底、池ノ平周辺も散策する人が
小さな蟻の行列を描いている。
 雪渓下部の大岩で昼食を作り日向ぼっこを決め込む。
もう一度雪が来たら終わりと思える紅葉を愛で、この季節 この廻り合わせの僥倖を感謝
する。 再び 涸沢小屋。週末の今日はオーナーも登って来ていた。
中高年女性のパーティーが多く、小屋の中まで錦秋の賑わい。夕食は3回転、それでも
予約客は一人一畳を確保できた。
 前々日に北穂沢を登り北穂高から涸沢岳への懸崖をこなして来た若者と隣り合わせ、
彼は北穂、私は奥穂を語った。明日は上高地へ降るが、問われて屏風の頭を越えて徳沢
に降るパノラマコースを薦める。 熟睡。

10.15(日) 第五日目
 本日も晴れ、4日間もの晴天続きに感謝。
名残惜しい涸沢を後に本谷橋を経て再び横尾に戻る。小腹を満たし 徳沢でパノラマコース
を下山した昨日の若者と偶然出逢う。連れ立って明神の嘉門次小屋に行きイワナとビール
でそれぞれの素晴らしかった山行に乾杯。
相席となった2人連れの女性と他愛のない会話を楽しみ時を忘れる。上高地をよく訪れると
いうこのご婦人達、それぞれしゃれた帽子に個性的なシルクのスカーフ、「お山は如何が
でした」と問いかけてくるうす色のサングラスの奥の瞳が美しい。

 日曜日の午後とて河童橋のたもとは大勢の観光客。シャトルバスで坂巻の湯に帰ったのが
午後3時、この山行の恵まれた条件に感謝し静かな湯で汗を流した。
自然の息衝きが素直に五感に溶け込んだ本当に贅沢な山の日々だったと想う。

      しみじみ晴れて 風ふく一人        種田山頭火

10.16(月) 第六日目
 宿で扱っている手作りみそをみやげに浦和へ帰る。
この夜は 何度も何度も穂高の岩稜が脳裏を廻り、なかなか寝付かれなかった。

(画像は クリックして拡大してください)



テーマ:登山 - ジャンル:スポーツ